長い年月にわたる放浪の旅の合間、エイミはラファエルからレイピアの技を学んだ。寄る辺なきこの世界にあって身を守る術は必須と言ってよいものだったのだ。他者に心を閉ざしつづけてきたエイミにとって、ラファエルだけが心を預けることのできる相手であり、剣の師たりうる存在であった。
エイミに剣技を教えるにあたって、ラファエルはある約束を交わす。「エイミが一人前の剣士となった時、ひとつ願い事を聞く」――。それがいかほどの励みになったかはさだかでないが、決して楽なものではないソレル・ラピエレの修行を通じて、ふたりの間に特別な絆が育まれていったのは間違いない。
生得のものなのか、エイミは直感力と観察力に優れ、時にラファエルが驚くほどの才能を見せることもあった。臨機応変の才を磨いた彼女は、いつしかソレル・ラピエレを自分にもっとも合った形でものにしていた。貴族社会の政争を生き抜くために生まれたソレル家の剣技は、みなしごであるエイミへとたしかに伝えられたのだ。
エイミの剣術は一撃で相手を屠るというより、相手の隙を突いて細かな打撃を積み重ねていくことを主眼としている。薔薇の花を投げつけることで相手の癖や反応をうかがうといった奇手も織り交ぜつつ、最終的には相手の動きを完全に見切って始末をつける、というのが彼女の流儀である。