ストーリー

フランス王国はルーアンの貧民街に生まれた少女、エイミ。
彼女を取り巻く世界は冷たく、暴力と猜疑に満ちていた。心にはびこる諦念とともに育った彼女にとって、「希望」は「絶望」によって上書きされるものでしかなかった。
ある日のこと、貧民街に喧噪がわき起こった。寝床へと戻ろうとしていたエイミに、突然、街路から飛び出してきた男が衝突して大きく倒れ込む。身なりからして貴族だろう。なぜこんな貧民街に? 兵士たちのあわただしい足音。ああ、追われているのか……。
――その男を助けたかったわけではない。
誓って憐憫などなかった。いつも邪険にしてくる兵士たちにせめてもの意地悪をしてやりたかった。それだけのことだった。
他愛のない嘘を信じて、兵士たちはその場を去った。
しかし、その男は去らなかった。なにか輝くものを前にしたように目を細めてエイミのことを見つめていた。彼女の短い人生において、そんな目で見つめられたことはなかった。名を尋ねられ、教えた。
その名を呟くように唱えながら、男は涙を流して感謝を口にした。
男――ラファエルに同道し、貧民街を後にした時、エイミの運命の歯車は大きく動き出していた。初めてみずからの足で歩く人生において、彼女は長らく拒み続けてきた「希望」と対峙することになる。