武器「パリンドローム」

手甲のような形状をしたこの「装置」には、右手部分に邪剣の欠片、左手部分に霊剣の欠片が、それぞれ埋め込まれている。装置から特定の波動を欠片へと送り込み、反射として受け取った情報――戦闘思念――を具現化することで、戦闘の記憶を「再生」するのがこの装置の基本的な働きだ。
この装置は技を繰り出すための武器をも生成するが、当初は武器が具現化されるまでの速度に難があり、実用に耐えないものであった。だがアズウェルは改良を重ね、双剣、大斧、槍と盾と大きく三つに区分することで高速化を実現した。現状でも新たな武器を生成するまでには時間差が生じるが、必要な戦闘思念への接続がひとたび確保できれば、次に「再生」する際にはさらなる高速化が可能である。
「パリンドローム」とは「回文」を意味する。回文とは、前後どちらから読んでも意味をなす奇妙な文章である。アズウェルが己の武器にこの謎めいた名前をつけた理由はつまびらかではないが、邪剣と霊剣の欠片を研究し、その力を「情報」として解析するに至ったアズウェルが、それらを文字列として解していたのは確かなようだ。
そうだとすれば、ある推測が成り立つ。アズウェルは邪剣と霊剣の「共通性」に、ある程度気づいていたのではないか、ということだ。相反する存在でありながら、なぜか共通する性質がある。この不気味な名はその暗示なのかもしれない。