よく知られているように、ウィッチャーにもいくつかの流派がある――。
長年にわたり狼流派のウィッチャー達はケィア・モルヘンに集って腕を磨き、また後継者を育ててきた。その修行風景は異色のもので、深い水に浸かったまま身体を動かしたり、高く突き立てた杭の上でバランスを取りながら剣を振るったりといった訓練を行う。しかも、時には目隠しをしたままで……。また、彼らは同時に<草の試練>と呼ばれる魔術の儀式を経て、己の身体能力を超人のそれへと変異させる。さらには、錬金術の習得もウィッチャーに課せられた重要な訓練の一環だ。携行できる霊薬の調合から、刃に塗布するオイル、爆薬の製作まで、その習得内容は多岐にわたる。
これらの訓練はもちろん、彼らが狩るべき怪物達との戦いを想定したものだ。星ひとつない暗闇の中、狭苦しい廃墟の奥……極めて不利な状況、場所で戦うことはウィッチャーにとって日常茶飯事である。どのような場合にも平時と同様の力を発揮して戦うため、彼らは厳しい鍛錬を怠らない。
魔術を取り込んだ戦い方もウィッチャーの得意とするところだが、彼らに大仰な呪文を唱えるだけの魔力はない。代わりに<印>と呼ばれる簡易的な魔術を、戦闘の要と言える場面で効果的に用いるのだ。
不運な成り行きから異世界へと飛ばされたゲラルトだが、この地にあっても技の冴えにかげりはない。そう、ウィッチャーにとって準備不足などということは決してないのだ。