ストーリー

雪のように白い肌、艶やかに輝く金の髪、彫の深いその貌には二つの紺碧の珠。ここ西日本の市井では、その姿は否応なしに人目を引く。だが、彼女は自らに向けられる眼差しを堂々と受けてなお凛と立っている。
彼女とて最初からこの気高さを纏っていたわけではない。混血の身なれば誰もが受けるであろう嫌悪、好奇心、心ない言葉に暴力。彼女もまた絶望の中で育ち、心を閉ざしていた。
両親の温かさは知らない。彼女はポルトガルから日本へと向かう船上で生を受け、両親は日本の地を踏むことなく病で死んだ。親類は異人の血を引く娘を“鬼の娘”と呼んで理不尽に虐げ、ついに彼女は家を逃げ出したのだった。
けれど、幼い身での旅が長く続くものではない。白い雪が降りしきる寒空の下で力尽きた彼女は、一人の男と出会う。遠宮舟元と名乗った若い剣士は、忌み嫌われ続けた彼女を雪原に咲いた花と呼んだ。「雪華」の名を与えられ始まった新たな暮らしは、凍てついた彼女の心を少しずつ溶かしてゆく。
舟元はその剣――抜刀術を雪華に教えはじめた。それは身を守り、生きるための術としてであったが、彼女はその才能を開花させる。いつしか修行は高度になってゆき、雪華は強さと美しさを兼ね備えた女性へと育った。二人は自分たちの絆を喜びとしながら、密かに暮らしてゆくのだと信じていた。
だが時代はそんな二人を放ってはおかなかった。舟元が修めた抜刀術、神伝対馬流の持つ闇が二人に静かに暮らすことを許さなかったのだ。
舟元はとある決闘によって負傷し、やがて世を去った。最期まで雪華に優しく、そして厳しく剣の指導をしながら。共に生きてきた者を失った雪華は、幼き頃感じていた孤独に再び浸されていくのを感じた。それでも……あのころとは違い、彼女には師が遺した抜刀術があった。舟元が立ち会った相手の名はわかっている。当代きっての武芸者、御剣平四郎。
雪積る師の墓前で彼女は呻く。死の縁で舟元は言い残した。師のための仇討ちを禁ずと。
――何故? 自分が弱いからだ。アタシの剣閃では、きっと返り討ちに遭うと……。
共に居て当然だった存在を失い、しかし復讐に生きることも許されない。一人残された雪華には、未だ進むべき道が見えなかった。